仏像に興味があるけど、どう楽しんでいいのかわからない……。
そんな方の背中を「仏像の楽しみ方は自由でいいんだよ!」と押してくれるのがこの連載。
ビジュアルから仏を目指す「仏ものまね」やってみた、第2弾です。
前回に引き続き、仏ものまねを見せてくれるのは、仏像に恋い焦がれる2人組「ほっとけーきず」です。(前回はコチラ)
田中ひろみ(写真 右)
イラストレーター&文筆家。奈良市観光大使。丸の内はんにゃ会代表。「仏像なぞり描き」シリーズ(池田書店)「時間を忘れて 仏さま塗り絵(東邦出版)」など著書は約60冊。
▶︎公式ホームページ
みほとけ(写真 左)
仏像に一番近いアイドル。アイドルとしての活動に加え、2018年には仏のピン芸人としてTHE W、R-1グランプリに出場。仏像になりきる「仏ものまね」を生み出した、仏クリエイター。
▶︎Twitter
第1弾では、二人が東寺の帝釈天と象になりきる姿をご紹介しました。
制作に密着して気になったのは、そもそも「なんで仏ものまねを思いついたの?」という疑問。
今回は、世にもふしぎな「仏ものまね」が生まれた経緯から尋ねてみようと思います!
ハリウッドザコシショウから空也上人へ
―仏ものまねをはじめたきっかけは?
「仏像好き」をわかりやすく表現する方法がないか考えていた時に、お笑い芸人のハリウッドザコシショウさんのドラクエものまねを見たんです。「私にもできるかも」と思って、割りばしで大好きな空也上人を真似してみたのが始まりです。
空也上人が最初だったんだ!私がTwitterで初めて見たみほとけちゃんは、ストッキングを被ってたよ。なんでこんなにかわいい子がこんなことしているの? 大丈夫?って、驚いたのを覚えてる。
「かわいい」を自分の価値だと思っていないんです、私。それよりも、面白いことをしていた方が人生充実する気がする!私にとって「仏ものまね」は、団子状態の地下アイドル界でひとつ飛び出すための武器でした。それと、ある時、「白衣観音」をものまねしてみたら、すごく美しく盛れたんですよね。それで見事にハマりました。
―仏ものまねをしてからの変化は?
前よりも、仏像がイキイキと見えるようになりましたね。ものまねをするために仏像の衣の動きなどもよく観察するんですが、その動きをつけた仏師の想いまで透けて見えるような気がするんです。
たしかに、写仏のときよりもずっと細かいところまで仏像を見るよね。私は、仏ものまねをするようになって、仏さまがより身近な存在に感じられるようになりました。あと、ものまねするのって、想像しているよりもずっと楽しかった!
―ファンの反応は?
みほとけちゃんって自分のイベントでも全然アイドルらしくないじゃない。ファンの人はどういう気持ちで観ているのか、すごく気になる!
正直、普通にアイドルをしていた時のファンは半分になりました。でも、「みほちゃんの想いを応援したい」って言ってくれる方も結構いるんです。先生も来てくれた私の生誕祭イベントのときは、木魚を持参してクラップの代わりに叩いてくれた方もいたんですよ!仏教とか仏像好きな私に、ファンが寄ってきてくれているんですよね。
そういえば、歌って踊るアイドルって、踊り念仏っぽさがあるね!
もしかして私、空也上人に近づいてきてます?みほの聖(ひじり)だ!!!
「仏像が好き」からスタートして、いまや多くの人々を導く「大乗仏教感?」まで出てきたみほとけの活動。そこにイラストレーターの田中先生が加わって奇跡のタッグがここに!これからの広がりに期待大です。
そして、その原点とも言えるのが「仏ものまね」。
今回は、みほとけと田中先生それぞれがお気に入りの仏像を目指します。
今回のテーマは、かわいいvs美しい!?
三井記念美術館で開催中(~6/23)の特別展、鎌倉禅林の美「円覚寺の至宝」。
二人は、この特別展で公開されている仏像の中から、お気に入りを選びました。
私は韋駄天にする!頭でっかちなのがかわいいよね。
「韋駄天立像」鎌倉時代 浄智寺(イラスト:田中ひろみ)
まるでフィギュアみたいなバランス!合掌した手に乗っているのは、布で巻かれた武器なんですよね。
鎧に施された土紋も鎌倉ならではの特徴だよね!凸凹の模様が表現できるように、それっぽい材料をいくつか持ってきたよ。
兜は画用紙で作って、土紋はキラキラにする予定。
先生、当たり前ですけどサラっと描いたイラストが上手すぎです。
私が選んだのは、滝見観音。この、けだるさを見てください!
重要文化財「滝見観音菩薩遊戯坐像」南宋時代 清雲寺(イラスト:田中ひろみ)
冠を取ると頭が真っ平なんだよね。私はそこが驚きだったな。
あと、顔面がリアルなんですよね。ドキッとしました。ものまねする上では、美しい冠がポイントかな。
表情はメイクで作ります。肝になる冠は、画用紙で作って……そして、さらにこれを使います!
サ、サイリウム……?
一体どんな仕上がりになるのでしょうか。
仏像がピクミンとセーラーマーキュリーに……?
テーブルの上に材料を並べたら、さっそく作業にとりかかります。
まずは、みほとけの滝見観音制作風景を見ていきましょう。
なにやら、冠の模様を細かく模写しているようです。
よくみると、冠の飾りにハートマークが入っててかわいい。セーラー戦士が身に着けてそう。滝だから水……セーラーマーキュリーだ!
サイリウムを取り付けて、鏡で確認しながらポーズをとっています。どうやらセーラーマーキュリーになりきっている様子。
一方、田中先生は兜づくりにとりかかります。
ストッキング被れたから、周りに画用紙の兜を貼り付けていけばいいかな。
ちょんまげ部分にモールを入れて立たせますね。
先生の後ろ姿、ピクミンみたい!懐かしい!
おそらく全員の頭の中に「引っこ抜か~れて~♪」というメロディーが流れる中、田中先生は着々と衣の着付けを進めていきます。
徐々に姿を現してきたセーラーマーキュリーとピクミン、もとい、滝見観音と韋駄天の仕上がりはいかに。
スタートから1時間あまり、仏ものまねの完成!
まずは田中先生の韋駄天の仕上がりからご覧ください。
先生は普段から着物を着ているから、仏の着付けも上手ですよね!仏まといのひろみだ!
みほとけちゃん、怪しい二つ名をつけないでよ!ただでさえ今、頭にストッキング被ってピクミンみたいになってるんだから。
いやいや、それはもはやストッキングじゃないです。韋駄天の甲冑です。鋭く遠くを見ている表情も最高!速さ、スピード、突き抜ける……先生、これは完全に顕現しましたね。
そう言われると、韋駄天のような気持ちになってきたかもしれない。
並べてみてもこのクオリティ!今にも動き出しそうな躍動感が伝わってきます。
続いては、みほとけの滝見観音。
冠のサイリウム光ってますか?光ってこそ菩薩!!!これがわたしの滝見観音だわ……。
これが仏像界のセーラーマーキュリーか!
ノリノリでカメラに応え、アンニュイな表情まで再現しています。
並べてみると、このクオリティ……!
サイリウムのおかげで、現代ver.のオリジナリティが一際輝いています!
おしまいに
仏ものまね連載2回目も走り抜けたお二人に、感想を聞いてみました。
コツというかやるべきことが分かってきたかな。私は元々手芸も大好き。こうやって作り上げていくのは楽しいよね。イラストの場合は黙々と無心になって描いているから、みほとけちゃんと一緒に作業できるのが楽しいの!
作業もそうですけど、誰かに見てもらいながら撮影するのが気持ち良くないですか?ある意味、アイドルのステージに立っているような気持ち良さを感じるんです。着替えて、自分じゃない何かになるのがたまらなく楽しいんですよね。
それは、憑依している感じ?
そうです!特に、今日は水属性の菩薩、いわばアイドルになったので、本当に清らかな気持ちでいられました。自分じゃない存在になる、これも無我の境地と言えるのかな?
みほとけの言う「自分じゃない何か」、仏さまはその最たるものと言えるかもしれません。
作ったそばから崩れていく仏ものまねは、自ずと撮影の一瞬に気持ちを集中させていきます。
今回も終始笑いの絶えない仏ものまねの現場でしたが、おもしろい・楽しいのもう少し先にある可能性を見たような気がしました。
ビジュアルから仏を目指す「仏ものまね」の道、まだまだ続きそうです。